園芸福祉事例発表
発表者:沢田慶子
■活動のタイトルまたは、テーマ
「デイホーム みのりの庭」の開設と園芸福祉の実践
※ 平成24年度の活動から
●活動の背景と目的 (背景)
私が、園芸をライフワークと意識して関わり始めてから、20年以上が経ちます。ガーデンデザイン→園芸療法と学びを進めて行く中で、その実践の場を求め、介護の現場に入って行きました。
夫の設計事務所(世田谷)の法人格をベースに訪問介護の事業所を設立したのが平成12年。介護保険制度との同時スタートでした。
「いつか、花や緑と関われるデイサービスを!」と青写真を描きつつ、介護の事業運営に忙殺され、月日が過ぎてゆくばかりでした。
今の国分寺にご縁を頂いたのは、私が所属する世田谷の当法人((株)生・活・計・画)が設計したビルの4階の植物環境を(国分寺の街づくり条例で定められている、緑化率を確保するため必要)管理する担い手をデイホームとして行っては、という話からになります。
土も緑もない、ビルの4階の雑然としたコンクリートスペースで、果たして園芸なんてできるのだろうか・・・そんな不安は余所に、造園業者さんの素晴らしいプラン、協力で、保水性に富む軽量用土の利用や、作業が楽な腰の高さのキャスター付きコンテナ導入などで工夫を施し、木々やハーブなどの自然が豊かな憩の庭に生まれ変わりました。(東西併せて約70u)
そして、平成23年3月10日〜みどりと関わりながら元気を目指すデイホーム「みのりの庭」〜を、オープンしたのです。と同時に、デイホームに園芸プログラムを提供したり、緑のネットワークを広げてゆくことをめざす「NPO法人ぐりーん・さいと」が同日開設となりました。
※以下は開設の頃の庭
(目的)
緑(グリーン)に触れ合う場(サイト)としてのネットワークを構築し、世代間交流、植物に関する学び、福祉、環境並びに高齢者の生活支援を行うことにより、風通しの良い顔の見える地域コミュニティーを
育て、幅広い世代が住み慣れた地域で元気に生きがいを持って暮らして行けるよう貢献することが、大きな目的です。
デイホームの活動を通じて、70〜80種の植物との関わりからもたらされる様々な効果・効用、意義を、空に近いこの庭で多くの人に体感して頂き、広がる仲間と共に地域に発信して行ければと、開設から3回目の春を迎え、真摯に願っております。
●活動の内容
- 「みのりの庭」では、庭(4階のテラスガーデン)の木々や草花を眺め楽しんだり、花や野菜・ハーブを育て、収穫し、食したり、クラフトしたり、スパイスや入浴剤やポプリに活用したり、一年を通して身近な植物や土に触れ、小さな大自然の恵みを享受しています。
- 園芸作業やクラフトは、日々の活動プログラムに組み入れ、主に午後1:30〜3:00の時間帯で行っています。
〜以下、プログラム活動の一例を紹介します〜
*朝1便で到着された利用者さんたちは、庭の花やハーブを摘んで、テーブルフラワーを活けてくださいます。
*花殻を摘んだり、弱った植物を抜いたり、土を再生したり、球根植えや種まきなど、その時期に必要な園芸作業を、庭で行います。
*野菜の苗植えや水遣りを行い、一緒に成長を見守ります。
収穫は皆さんのお楽しみ作業で、もちろん当日の昼食に利用されます。
*花の季節には、沢山、押し花を作ります。成果は、カレンダー、コースター、ペーパーウェイトなど様々な作品創作に利用します。
*予定していた園芸プログラムが、天候の都合により庭で行えない場合、用具やコンテナを持ち込んで、室内で作業する場合も多くあります。
*改善事例、エピソード
@Aさんはご自宅で育てた、『なでしこ』の鉢植えをご持参くださいました。ほかの利用日のBさんは、この花が大好き。「元気が出るのよ!」と、楽しみにされています。その話を伝えるとAさんも嬉しそうで、ご自宅での園芸成果に張りが出るのか、種から育てた苗をさらに披露してくださいます。
Aご病気で、重いうつ症状を併発し、長いこと外出やデイサービスを拒否されていたCさん。「みのりの庭」の雰囲気と活動を受け入れてくれ、週2回のご利用を継続されるうちに、少しづつ笑顔と意欲が戻り、帰宅後に活動の様子を嬉しそうに話してくれるようになったとの事。「元気だった頃の母のイキイキした笑顔です!」と、ご家族から喜びの声を頂きました。
B植物の勉強会を随時行い、テーブルの上に季節の植物を飾ると、色々な話題に広がり思い出話に花が咲きます。皆さんの記憶の引き出しに効果が見られます。
● 運営や体制
- デイホーム みのりの庭:定員9名の小規模デイサービス。管理者である私(居宅支援事業所の管理者と兼務)を含め4名の常勤スタッフと3名のパートスタッフで日々の業務を行っています。叶カ・活・計・画の事業展開として介護保険で運営されています。
- NPO法人ぐりーん・さいと:代表を私が勤め、現在収益事業は行っておらず、会費のみで運営しています。主に、デイホームの庭の管理、園芸プログラムの提供、ボランティア受け入れ窓口、地域との交流窓口として、園芸ボランティア数名、事業所のスタッフの活動により支えられています。
●地域との関わり
- 地域ボランティアのイベント(ハーモニカ演奏会、マジックショー、コーラスなど)を行う中で、庭の存在をPR、庭の雰囲気を体感していただきます。
- 地域の緑の活動グループとの交流として、ご利用者と一緒に行ったハーブの挿し芽苗や花の種を(種袋はご利用者の手作り)を寄贈させていただきました。
- 園芸ボランティアの呼びかけを、店頭やHPで積極的に行い、地域の方が気軽に庭を訪れてくださるような働きかけをしています。高齢者と地域の方との交流を図れる場所を目指しています。
●これまで苦労した点や今後の課題
- ビルの4階テラスガーデンは、天候の影響を強く受けやすく、暑さ寒さ、風との戦いです。特に強い風が吹くと、植物や設備がダメージ被ります。
- 持続可能な植物生育環境には、計画力、植物の専門知識、それを実行する管理・作業力が伴わないと、雑然としてしまい、心地良い緑の環境が維持できなくなります。
- 天候にかかわらず、室内でも園芸作業を行うよう工夫をしておりますが、作業スペース、衛生面などから限度があります。活動内容にも制限が生じてしまいます。
- 認知面での低下がみられるご利用者が多い中、難易度、達成感を得られるプログラムの展開に苦慮しております。おひとりおひとりの興味と意欲を引き出せるようなきめ細やかな援助、声掛けも不可欠です。
- 庭での活動には、リスクが付きまといます。事故が無い様、環境・設備のみならず、それぞれのご利用者の身体状況を配慮しながらの誘導が必要です。
- 上記の課題を進めてゆく為の人材確保に窮しています。状況に対応できるボランティアさんと、その安定的なサポートが得られるような体制づくりが今後重要になってきます。